会社全体の設計図を読む
エンタープライズアーキテクチャとは?業務からITまで「全体でつながる」設計図
エンタープライズアーキテクチャ(EA:Enterprise Architecture)は、会社全体の業務・情報・システム・技術の関係を整理し、部分最適を防ぐための考え方です。「参照モデル」という専門用語も、実際には何を整理するための共通のひな型かを表しています。
なぜ「会社全体の設計図」が必要なのか
全国に店舗を持つ小売企業を考えます。各店舗が「自分の店だけ便利ならよい」と、別々の販売管理システムを導入しました。A店の商品番号「001」がB店では別の商品を指し、本部では全店舗の在庫を一度に集計できません。新しいネット通販を始めようとしても、システムの接続方法が店ごとに違います。
部分最適:各店舗が独自に決める
店舗では動いても、全社の在庫がつながらない。
全体最適:共通の考え方で設計
全店舗の情報を比較・連携しやすくなる。
EAの狙いは、単に全システムを同じ製品に置き換えることではありません。共通にすべき部分と、店舗ごとに違ってよい部分を見極めることです。
まず業務を整理する。それがBRM
「在庫管理システムを新しく作ろう」と技術から考え始める前に、そもそも誰が、どんな仕事を、どんな目的で行うのかを確かめます。それを共通の分類として整理するのがBRM(Business Reference Model)です。
BRMによる業務分類の例(説明用)
販売計上
出荷
返品
この分類はソフトウェア名ではなく、実際に組織が行う仕事の分類です。「販売システムがある」という説明だけでは、何をする業務なのかが見えません。
同じ「返品」業務を店舗と通販で別々に構築する必要があるか、同じ商品データを使えるか、といった改善の議論も業務の全体像が分かって初めてできます。
業務を実現するには、データ・機能・技術が必要
「お客様が商品を注文し、倉庫から発送する」という同じ一つの業務を、異なる観点で見るとどうなるでしょうか。四つの参照モデルを一つの流れとして並べます。
Business Reference Model(政策・業務参照モデル)
BRM:業務を整理
私たちは何の仕事をしている?
例:注文受付・商品引当・出荷・返品対応
Data Reference Model(データ参照モデル)
DRM:データを整理
その仕事で何の情報を共有する?
例:商品ID・在庫数・注文日・顧客IDの定義
Service Component Reference Model(サービスコンポーネント参照モデル)
SRM:機能を整理
どんなソフトウェア機能が必要?
例:在庫照会・注文登録・決済・通知
Technical Reference Model(技術参照モデル)
TRM:技術を整理
それらの機能を何の技術で動かす?
例:データベース・API・認証基盤・実行環境
これは理解のために業務から技術へ並べた図です。実際の設計では各領域を行き来して整合を取ります。特に、DRMはデータの定義を共有すること、SRMはアプリケーションの機能を分類すること、TRMは技術の基盤を標準化することが中心です。
PRMは「設計した結果、良くなったか」を見る
ここまでの四つだけで業務とシステムの構造は説明できます。しかし、共通化のプロジェクトにお金をかけて、本当に会社は良くなったのでしょうか。
PRM — Performance Reference Model(業績測定参照モデル)
成果を、測れる指標で整理する
欠品による販売機会損失
月120件 → 40件
出荷までの平均時間
24時間 → 8時間
在庫集計の作業時間
週20時間 → 2時間
数値は考え方を示すための架空の例です。
PRMは、業務そのものを分類するBRMとは違い、投資や改善の成果をどの指標で評価するかという観点です。PRMの指標は業務やITの成果を振り返るためのもので、単に数字を集めればよいわけではありません。
5つの参照モデルは、何を分類するかが違う
| モデル | 何を整理する? | 店舗・通販の例 |
|---|---|---|
| BRM:業務 | 仕事の目的・種類・流れ | 注文受付、物流、返品対応 |
| PRM:業績 | 投資・改善の成果を測る指標 | 欠品件数、出荷所要時間 |
| DRM:データ | データの名前・意味・属性 | 商品ID、在庫数、注文日 |
| SRM:サービス | ソフトウェアの機能・部品 | 在庫照会、注文登録、通知 |
| TRM:技術 | 基盤や技術の標準 | DB、API、認証、実行環境 |
参照モデルとは、特定企業の完成済みシステムを指す言葉ではありません。組織が自分たちのEAを設計するときに使う分類・整理の共通のひな型です。万能な一つのモデルですべてを表すのではなく、必要に応じて複数の視点を組み合わせます。
よくある取り違えを、実際の変更要求で考える
「店舗ごとに注文受付の手順が違う」
まず業務の種類と流れを整理する。中心になるのはBRMです。
「店舗ごとに商品コードの意味が違う」
データ定義を統一する。中心になるのはDRMです。
「同じ在庫照会機能を各部署が別々に作っている」
再利用できる機能を整理する。中心になるのはSRMです。
「各システムがばらばらの連携技術を使っている」
標準となる技術・基盤を整理する。中心になるのはTRMです。
「共通化したけれど、成果が分からない」
成果を測る指標を整理する。中心になるのはPRMです。
現実の課題では複数の領域が関わりますが、「まず何を整理しているのか」を見れば主となる参照モデルを見つけられます。
操作ラボ:会社の混乱を5つの観点で整理する
状況を選ぶと、担当すべき参照モデルと、何がまだ未整理なのかを検討できます。略語を当てるだけでなく、変更によってどんな問題が解消されるかを確認してください。
EA・参照モデル シミュレーター
問題はどこにある?何を整理すればいい?
会社の悩みを選び、まず最も直接関係する観点を考えてみましょう。現実には複数のモデルを一緒に使うこともあります。
いま起きていること
通販の返品を、店舗Aは店長が承認、店舗Bは本部が承認。担当の境界も曖昧で問い合わせがたらい回しになっている。
最初に整理すべき対象は?