NETWORK ACCESS / WI-FI / IDENTITY
IEEE 802.1XとRADIUSとは?
企業Wi-Fiの認証を体系的に理解する
公開日:2026-10-10
会社のWi-Fiに接続するとき、なぜ共通パスワードを入力せず、自分の社員アカウントやPCの証明書だけで接続できるのでしょうか。鍵は端末・アクセスポイント・認証サーバーの役割分担にあります。
身近なWi-Fi → 802.1Xの語源と目的 → 3つの役割 → EAPOL/RADIUSの図 → EAP-TLSと証明書 → WPA-Enterprise → NAC・VLAN → 具体的な通信 → 操作ラボ。
1. 会社・大学・自宅のWi-Fiは何が違う?
家庭のWi-Fiはルーターに設定した共通パスワードを家族が知っていれば接続できる構成が一般的です。一方、大きな会社では人員の増減や紛失端末に対応するため、社員・端末単位で認証し、無効化できる仕組みが求められます。大学のeduroam、会社の社内SSID、管理対象PCが自動接続するWi-Fiなどが身近なイメージです。ただしすべての企業Wi-Fiが802.1Xを採用しているわけではありません。
| 場面 | 接続方法の例 | 認証・制御の考え方 |
|---|---|---|
| 自宅のルーター | WPA2/WPA3-Personal、共有パスフレーズ | 同じWi-Fiパスワードを知る端末が接続する |
| 会社の社内SSID | WPA2/WPA3-Enterprise+802.1X | 社員アカウントや端末証明書に基づき個別に認証 |
| 大学の学内無線LAN | 802.1X+RADIUS等、組織ごとの設定 | 大学が認証基盤を集中管理し、複数APで同じ資格情報を利用 |
| 会議室のゲストWi-Fi | 別SSID、ゲスト用認証、キャプティブポータル等 | 社内システムへの到達を制限する |
| オフィスの有線LAN | 802.1X対応LANスイッチ | 無線だけでなくLANポートの接続も認証で制御 |
2. IEEE 802.1X・RADIUS・EAPの正式名称と役割
| 用語と語源 | 何を決める? | 覚え方 |
|---|---|---|
| IEEE 802.1X(Port-Based Network Access Control) | LANのポート単位でネットワークアクセスを制御する枠組み | 入口を開けるか決める仕組み |
| EAP(Extensible Authentication Protocol) | さまざまな認証方式を扱うための拡張可能な枠組み | 認証の会話の共通形式 |
| EAPOL(EAP over LAN) | 端末とAP/スイッチ間でEAPをLANフレームに載せる | 端末から入口までの言葉 |
| RADIUS(Remote Authentication Dial In User Service) | 認証・認可・課金/記録(AAA)に使われるプロトコル | 入口から認証センターへの問い合わせ |
| AAA(Authentication, Authorization, Accounting) | 本人確認・許可・利用記録の3機能 | 入ってよいか、何をよいか、何をしたか |
RADIUSという名称はダイヤルアップ接続が盛んだった時代の名残です。今ではダイヤルアップ専用ではなく、Wi-Fiや有線LAN、VPNなどでも使われます。802.1Xは「認証を受ける側」「入口を管理する側」「認証を判断する側」の役割を定めるもので、RADIUSはそのうち入口側と認証サーバーの通信に利用する代表的な方法です。
3. 最重要:3つの役割と、APの二つの顔
| 役割(英語) | 設置場所 | 具体的な仕事 |
|---|---|---|
| Supplicant(サプリカント:要求・申請する人) | PCやスマートフォン | EAPで認証を受ける。Windowsの802.1Xクライアント等 |
| Authenticator(オーセンティケータ) | Wi-Fi AP、認証対応LANスイッチ | 入口のポートを制御し、端末と認証サーバーのEAPを中継 |
| Authentication Server(認証サーバー) | 集中管理されたRADIUSサーバー等 | 資格情報や証明書を確認し受け入れ/拒否を判断 |
| RADIUS Client(RADIUSクライアント) | 同じAPやスイッチ | RADIUSサーバーへAccess-Requestを送り応答を受け取る |
- PCとAPの間ではEAPOLでEAPのメッセージがやり取りされる。
- APと認証サーバー間では、EAPをRADIUSの属性に格納して運ぶ。
- 認証サーバーが検証し、結果をAPへ返す。
- APは結果に基づき通常のデータ通信を許可・制限する。
4. EAPOLとRADIUSはどこを流れる?
3者の間を同じプロトコルが端から端まで直接走る、と考えると混乱します。端末とAPはローカルリンク上のEAPOL、APとRADIUSサーバーはIPネットワーク上のRADIUSが使われます。APはEAP内容を中継するパススルー方式で動作する構成が一般的です。
- EAP-Request/IdentityとEAP-Response/Identityなどのメッセージが交わされる。
- APがEAP-Message属性を含むRADIUS Access-Requestを送る。
- 必要に応じてAccess-Challengeが返り、EAP認証のやり取りを継続。
- 最終結果に応じてAccess-AcceptまたはAccess-RejectがAPへ返る。
- APが認証済みポートを開き、必要なネットワーク権限を適用する。
# 教材用の論理メッセージ例(実際のパケットダンプではありません)
PC → AP: EAPOL / EAP-Response/Identity
AP → RADIUS: Access-Request { EAP-Message: EAP-Response/Identity }
RADIUS → AP: Access-Challenge { EAP-Message: EAP-TLS request }
AP → PC: EAPOL / EAP-TLS request
PC → AP: EAPOL / EAP-TLS response
AP → RADIUS: Access-Request { EAP-Message: EAP-TLS response }
RADIUS → AP: Access-Accept(または Access-Reject)
AP → PC: EAP-Success(または EAP-Failure)上のコードは説明用の簡略化したログ例です。EAP-TLSでは実際には複数回の往復があり、メッセージの詳細は方式・バージョンによります。「EAPOL = PCとAP」「RADIUS = APと認証サーバー」と区切って覚えると整理しやすくなります。
5. EAP-TLSと証明書:なぜ社用PCだけ接続できる?
企業が管理するWindows PCやMacへ端末証明書を配布し、社内Wi-Fiの認証に使用するケースを考えます。EAP-TLS(Extensible Authentication Protocol - Transport Layer Security)はTLSと証明書を利用した認証方式です。一般にサーバー証明書とクライアント証明書を使った相互認証を行います。
- PCは認証サーバーの証明書の信頼チェーンやサーバー名を検証する。
- 認証サーバーはPC側の証明書、署名、信頼されたCA、有効期限、失効状態などを検証する。
- 証明書の検証が通れば、認証結果がAPへ通知される。
- APがネットワークへのアクセスを許可する。
| 証明書の用語 | 役割 | 具体的に起こること |
|---|---|---|
| CA(Certificate Authority、認証局) | 証明書の発行元への信頼を管理 | 会社の内部CAがPCや認証サーバー向け証明書を発行 |
| サーバー証明書 | 正規の認証サーバーを確認する | 偽アクセスポイント経由の不正サーバーへ認証情報を渡さないため検証する |
| クライアント証明書 | 接続するPC・利用者の資格を証明する | 証明書に対応する秘密鍵を保持する端末がTLS認証に参加 |
| 失効(Revocation) | 紛失・退職などで資格を無効化 | 証明書の失効確認や短い有効期限など運用設計が重要 |
| EKU(Extended Key Usage) | 証明書の利用目的を示す | Server Authentication/Client Authenticationなど |
代表的な別方式にはPEAP(Protected EAP)があります。PEAPはTLSトンネル内で別の認証方式を利用する構成です。EAP-TLSとPEAPを同じものと覚えず、どの資格情報をどの方法で守り、検証するかに注目しましょう。
6. WPA2/WPA3-Enterpriseと802.1Xの違い
| 技術 | 担当する範囲 | 混同しやすい点 |
|---|---|---|
| WPA2/WPA3-Personal | 共有パスフレーズ等を用いた無線LANの保護 | RADIUSに問い合わせる企業向け方式とは異なる |
| WPA2/WPA3-Enterprise | 802.1X/EAPを用いた企業向けの認証・鍵管理 | IEEE 802.1Xと組み合わせて利用される |
| IEEE 802.1X | ポートに接続する主体の認証・接続制御 | Wi-Fi専用ではなく有線LANでも利用 |
| RADIUS | AP・スイッチと認証サーバー間のAAA通信 | Wi-Fiの空中区間そのものを暗号化する規格ではない |
| EAP-TLS | 証明書を利用するEAP認証方式 | APが端末証明書を独力で全検証するわけではない |
無線の接続方式、認証のプロトコル、認証サーバーへの中継は、別々のレイヤーです。WPA3-Enterpriseであっても、すべてのモードで同じEAP方式が必須というわけではありません。高強度のWPA3-Enterprise 192-bitモードではEAP-TLSなど、より厳格な条件があります。
7. 接続できた後のアクセス制御:NAC・VLAN・ACL
認証は「利用者・端末は誰か」、認可は「どのネットワークに入れるか」です。RADIUSの結果を利用し、社員端末には社内VLAN、来訪者にはインターネット専用VLANを割り当てる実装があります。802.1XとRADIUSを導入しても、認証後のアクセスを無制限に許可してはいけません。
| 用語 | 説明 | 実務での例 |
|---|---|---|
| NAC(Network Access Control) | ネットワークアクセス制御の総称 | 未管理端末を入れない、端末状態を評価 |
| VLAN(Virtual LAN) | 論理的にLANを分ける | 社員VLANとゲストVLANの分離 |
| ACL(Access Control List) | 許可・拒否する通信の一覧 | ゲストから社内ファイルサーバーへの通信を拒否 |
| 認証後の動的ポリシー | 認証結果に応じた接続先制御 | RADIUSの属性とAPの設定でVLANを切り替える |
| Quarantine/検疫 | 端末を制限された領域に隔離する | アップデート未実施端末を修復用ネットワークへ |
8. RADIUSのAccess-Accept/Rejectと運用上の問題
複数のアクセスポイントが1台の認証サーバーを利用する構成では、ユーザー情報を各APにばらまかずに一元管理できます。一方、認証サーバーが停止すれば新しい認証が難しくなるため、実務では冗長化や監視が重要です。また認証のためのRADIUS通信は、古典的な方式と新しいトランスポート保護方式でセキュリティの考え方が違います。通信経路の信頼性、共有シークレット、RADIUS over TLS(RadSec)などを適切に検討します。
| 状況 | 認証で起こり得ること | 対策 |
|---|---|---|
| 証明書期限切れ | EAP-TLSの認証失敗 | 証明書自動配布・期限監視 |
| RADIUSサーバー停止 | 認証要求に応答が得られない | 認証サーバー冗長化と監視 |
| 不正なRADIUSサーバー | なりすまし・資格情報の危険 | 端末側のサーバー証明書検証と認証基盤の保護 |
| ゲスト端末の接続 | 正当でも社内リソースに入れるべきではない | VLAN/ACLとゲストポリシー |
| APの設定不一致 | 一部のSSIDやAPだけ認証に失敗 | ログ、RADIUSクライアント定義、共有シークレット等を調査 |
9. 操作ラボ:あなたのPCは社内Wi-Fiへ入れる?
管理PC、期限切れ証明書、未登録端末、ゲスト端末を切り替えましょう。RADIUSサーバー停止、サーバー証明書検証、動的VLANの設定によって何が変わるかも確認できます。実在のネットワークには接続しない教材用ラボです。
INTERACTIVE NETWORK AUTHENTICATION LAB
企業Wi-Fiの認証フローを動かす
概念シミュレーターです。実際のWi-Fi接続・認証サーバー通信・認証情報送信は行いません。
Supplicant
Authenticator
RADIUS Client
RADIUS Server
STEP 1 / 6
接続要求
PCが企業SSIDへ接続を試みる。APの制御ポートは認証前状態で、通常の業務通信は通さない。
認証・ネットワーク接続の結果
Access-Accept:社員VLAN 20へ接続可能
組織が配布した有効なクライアント証明書。RADIUSサーバーの証明書も検証済み。 動的VLANやACLの内容はネットワーク機器・RADIUS設定によります。
10. 応用知識:RADIUSとTACACS+、802.1XとCaptive Portal
| 仕組み | 主な役割 | 違い |
|---|---|---|
| IEEE 802.1X | LAN接続ポートへの認証・制御 | ネットワーク参加の入口を制御 |
| Captive Portal(認証ポータル) | Wi-Fi接続後にブラウザで利用条件やログインを表示 | Webページでの手続きであり802.1Xとは別 |
| RADIUS | ネットワークアクセス時のAAA | APやNASの認証基盤として使われる |
| TACACS+ | ネットワーク機器管理のAAAなど | 機器管理者ログイン・コマンド権限制御等で使われる |
| 802.1X有線LAN | スイッチポートの認証 | 無線APではなく有線スイッチがAuthenticatorになる |
ホテルのWi-Fiで最初にブラウザを開いて利用規約を承諾するのはCaptive Portalの例です。会社のWi-FiでPCの証明書を使って接続するのは802.1X/EAP-TLSの例です。見た目はどちらも「Wi-Fiにログイン」ですが、動いている技術が異なります。
11. よくある疑問
標準的な802.1X構成ではAPまたは認証スイッチです。PCはSupplicantであり、端末とAPの間はEAPOLを利用します。
この構成ではAPがEAPを中継し、中央のRADIUS認証サーバーが認証結果を決めます。APはその結果でアクセスを制御します。
802.1X/EAPとRADIUSは認証と鍵管理の一部を支えますが、無線区間のデータ保護はWPA2/WPA3の無線セキュリティ機構と合わせて理解します。
いいえ。LANスイッチの有線ポート認証でも使われます。
いいえ。サーバー証明書の検証、端末秘密鍵の保護、証明書の失効管理、認証後の権限設計が必要です。
参考規格・公式ドキュメント
IEEE 802.1X本体、EAP、RADIUSへのEAP運搬、EAP-TLSの順番で参照すると、それぞれの役割を混同しにくくなります。
- IEEE 802.1X — Port-Based Network Access Control(IEEE)
- RFC 3748: Extensible Authentication Protocol (EAP)(IETF / RFC Editor)
- RFC 3579: RADIUS Support for EAP(IETF / RFC Editor)
- RFC 2865: Remote Authentication Dial In User Service (RADIUS)(IETF / RFC Editor)
- RFC 5216: The EAP-TLS Authentication Protocol(IETF / RFC Editor)
- RFC 9190: EAP-TLS 1.3(IETF / RFC Editor)
- WindowsでのネットワークアクセスのEAP(Microsoft Learn)
- EAP-TLS および PEAP の証明書要件(Microsoft Learn)